徒然なるバカはその日暮らし

雑に色々、長々と淡々と。

Only One Second

所詮私は後追いなのだ。
深みにはまったときにはすでに遅い。そんな失敗を幾度となく繰り返している。

しかし今はいい時代だ。モノを手に入れれば記録が見れて、言葉を辿れば記憶が覗ける。
だが、その記録と記憶が紡がれた時間の中に、私はいない、どこにも。
どれだけ頭の中に、それらを詰め込んだとしても、それは上っ面だけのもののように感じられてしまう。
そんな、なんとも言えない虚しさは、永久に消え去ることがなかった。


5月19日までは。

クソくだらない想いを抱いたままのあの日の私を迎えたのは、永遠に最高を更新し続ける輝ける一瞬であった。
たった1音、たった1節に乗るナニカが、むず痒く粘ついたナニカを全て消し飛ばした。

ああ、知ってる。知ってる歌だ。
ちょうど一年前に初めて聞いたんだ。


一年前の私は「予習」と言うものをほとんどせずにさいたまスーパーアリーナを訪れた。
コールが必要なものだけある程度聞いておき、そうでないものに関してはノータッチでいた。
元々ここまでどっぷり浸かるつもりもなかったからだ。

そんな中途半端の脳天から足の先まで紫に染めてくれたのがこの歌だった。よく覚えている。
これ以上美しく、心に響くモノを見る日が来るのだろうか。
あの瞬間から、氏の歌と声に文字通り釘付けにされた。
あらゆる機会を行使して、歌声を求めた。
無心で記録と他人の記憶を掘り起こし、悔いる。
その悔いを塗り潰すように、行けるところまで行った。
そして、先の問いかけへの答えは存外早く出た。
聞く度に、見る度に、それはどこまでも美しく見え、心中に響いてきた。虜だった。
1年足らずで見事に捕らえられた。
この歌で、力強く進めた。


走馬灯、と言うべきだろうか。
この歌を聞いたあの瞬間から、今日に至るまでの想いが蘇る。
そう、僕は今ここにいる。
記録の中にいる。彼女が最高の瞬間を描くその中にいる。
追いかけてきた長さなど関係がなかった。今目の前に輝いている氏が最高なのだから。
生暖かい水滴と、その重さに引かれるように頭が垂れる。
やっとの思いで顔を上げると、氏の紡ぐ瞬間と笑顔が、まつ毛にこびり付いた雫に乱反射し、一際輝いて見えた。
綺麗だった。

所詮私は後追いだ。
そんな水を差すような事実を吹き飛ばすように、氏の瞬間が吹き付けてくる。
その風速と熱気にあてられて、無意識に腕が上がり、それを振っていた。
声にならない声を上げようとしていた。声帯は不可抗力に振るえて、機能を果たしてはくれなかった。

1音毎に、1節ごとに氏の最高が塗り替えられていく。一瞬たりとも見逃せない。見逃したくない。
それでも心が勝手に、瞳にモヤをかけてくる。
必死に引き剥がして、身体が前を向こうとする。
なんでこんなに美しいんだろう。
そう思いながら過ごす1秒は何万秒にも感じられて、永遠にこの時間が続く気がして。

しかし終わりが来ると、裏腹に一瞬に感じられた。
ああ、終わった。
この寂寥感すら美しい。
私は紛うことなき、祭りにいたのだ。