嗚呼、ビスコくん
こういうやつ。
前の職場にも、前の前の職場にもあった。
そしてそこにはコイツがいた。
ビスコ。
みんな好きかなぁ、ビスコ。
美味しくて強くなる、頼もしく愛おしいやつさ。
業務中に軽く食べ物をつまんでもOKな環境だったので、こいつをよく買っていた。
手が汚れないんだなぁ。しかも美味しい。
あと、懐かしい気分になれる。その上美味しい。
短くない時間をコイツと共にしてきたものだ。
おかげで、「ビスコの人」というイメージまで定着した。
私とビスコの関係は永劫続く……。そう思っていたのだが。
あるときから、売店のビスコがオシャレを始めた。
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コンガリ焼けてきたり。
バッチリ香りをキメてきたり。
味わい深くなったりしてきた。
正直に告白すると、いつも通りのアイツとの関係も、若干マンネリになっていたところがあったので、オシャレなコイツらをチョイチョイつまんでみたりしたのだ。
しかし、求めていたビスコじゃなかった。
味が濃い、塩的なものが手につく。
何より、あの独特の爽やかなビスコ風味を感じられない。
美味しいけど、とても強くなれる感じはしなかったのだ。
やっぱり、私にはアイツしかいないのだ。
そう思い直し、アイツの、真っ赤なボディを求めに行くと
なんということだ、どこにもいなかった。
社内売店は無論、近隣のコンビニエンスストアにもいない。
赤くて愛しいあんちきしょうが、影も形もなくなり、代わりとばかりに空席には小洒落たビスコたちが居座っていた。
ああ、なんということだ。
ちょっと浮気したばっかりにこんな、こんな。
むごい、あんまりじゃあないか。
こんなにも心と身体が求めているのに見当たらない。
私は深い絶望に打ちひしがれ、ヤケになってレッドブルを飲み干した。
強くなる方法なんて他にある、コイツは翼を授けてくれる。
そう強がるように、アイツに見せつけるように。
虚しい。
そしてまた、思い出したように項垂れながら売店に向かうと、出迎えてくれるのはオシャレさんたちだ。
やめろ、違う。
キミたちも決して悪いヤツじゃない、わかってるさ。
だけど、私が求めているのは
都会に揉まれて、こまっしゃくれたビスコさんじゃない。
長い間健気に、健気に頑張り続けた、泥臭いビスコくんなんだ。
嗚呼、ビスコくん。君が欲しい。
※他の味を貶めたいわけではないです。美味しいのは本当なんです。あと、赤いアイツは地元のスーパーにいました。