Indigoを聴きました
やっとこさ聴き終わり、やっとこさ言語化できたため、感想をまとめていく。
考察ではなく、あくまで感想文もとい怪文書であるので悪しからず。
○トラックリスト
美しい。見世物として完成された水槽 「アクアリウム」で始まり、未知且つある種神秘の夜の海「night sea」で締めくくられる。
〔CORE〕から変わらず、1本の物語めいた構成に感嘆せざるを得ない。
○楽曲
・アクアリウム
一曲目にして、本アルバムのキラーチューンその1だと考えている。
アシッドジャズを感じさせる、静かだが確かなノリの良さがある楽曲。
1:10前後から広がるようにバッキングの力が入り、1:28前後からサッと落ち着き抜けていく。静かな水面が激しく泡立ち、何事もなかったように消えていくような感覚を覚える。
しかしながら、シンコペーションによる前進感が伴って、穏やかであれど勢いは殺されぬまま2コーラス目に入っていく。
本アルバム中、歌唱最難関ではないかと個人的には思っているが実際のところはどうか。
・ララルハレルヤ
表題曲ということもあってか、ノリやすくカラッとした印象。
今回は全体的にウェットな印象が少なく、夏らしい爽やかさや涼やかさを感じられる。
MVにある通り、晴天の下をオープンカーで風を感じながら聴きたくなる。
レトリーなポップ調でとっつきやすく、如何にも表題曲といった感じ。
(とはいえ失恋の詞なのだ。一体駒形友梨(以下、氏)は何度曲中で失恋するのか)
・invincible self
このアルバムの中で唯一「縦ノリ」でアニメソング調の楽曲。
奇しくも、その曲調にはどこか「プリキュア」を感じたりした。
「越えることのできない(障害)」、「無敵」を意味する“invincible"を冠する通り、曲が進んでいくにつれて障害を乗り越え無敵に近づいていくような力強い歌詞と歌唱を聴ける。
楽曲、タイトル、歌詞、歌唱、全てにおいて今現在における氏の集大成に触れられるのではないだろうか。
「声優」、そして「アーティスト」。なくてはならない氏の両側面が強く現れた、本アルバムにおけるキラーチューンその2(個人的に)。
・おそろい
氏が作詞を担当した楽曲その1。
ボサノバ・ジャズ調の穏やかで温かい曲。
1stシングル「トマレのススメ」のカップリング曲、「Lonely Blueが終わる頃には」でも見られたような、楽曲の雰囲気に寄せすぎない巧妙な歌唱(だと思う)。
氏によるイタズラっぽい可愛らしい歌詞に、どこかくすぐったさも感じる小気味よい歌唱がマッチして、氏の楽曲群の中でもまた質を異にした作品に仕上がっている。
(これを聴いた後に、機会があれば鷲崎健氏の「バラバラ〜Balance 2 Variance〜」を聴いてみて欲しい)
・August 31
ラテン調の情熱的な曲調と、強い後悔を思わせる歌詞によって紡がれるナンバー。
クラシックギターとフィンガースナップの色気あるイントロに、バンドネオンの美しく力強い旋律を乗せて続く。
美しくしなやか、しかし確かな力強さのある氏の歌声の1番の特性(だと思っている)を最もよく感じられるナンバーではないか。
(また失恋である)
・優しい雨
氏が作詞を担当した楽曲その2。
「August 31」とは対照的な雰囲気で、落ち着いたピアノと氏の歌声から始まる、ゆったりとした響きがじわじわと沁み渡るナンバー。
歌詞もまた一つ前の楽曲とは対照的な「前向きな別れ」を思わせるものであり、曲調と合わせてタイトルどおりの、優しくて温かい雨、まるで催涙雨のような雨を思わせるナンバーとなっている。
今回の氏による作詞はどちらもとても愛らしく柔らかい印象で、〔CORE〕の「時の葉」の詞とはまた方向性の違うものとなっている。
「おそろい」と併せ、氏の幅広さと可能性を明示する1曲。
(ああ、失恋である。悪いか?)
(余談になるが、雨に濡れてみるのも悪くないな、と感じた筆者は、このブログを書いている日の朝、雨の中徒歩で出社した。雨は冷たかった)
・night sea
歌詞はなく、曲と氏のボーカリーズのみで構成される。
先にも述べた通り、未知で神秘の「夜の海」だと感じたわけであるが、歌詞が存在しないという点でお分かりいただけるのではないだろうか。
歌詞がない分、この楽曲の情報量は極端に少なくもあり、同時に際限なく膨大にもなり得る。それは、この楽曲に対するリスナーの想像を狭めることもあれば、逆にどこまでも広げることもできるという意味だ。
即ち、極めてこの楽曲の全貌は掴みづらくなっている。
ここにまさしく、深淵を感じさせる「night sea」を見ることができるのではないだろうか。
この歌は、どこまでも広がる神秘への希望を歌っているのか、はたまた恐怖やためらいを歌っているのか。
○まとめ、雑記
さて、上までに書いてきた詳細な楽曲の感想はどうでもいい。重要なのはジャンル、というかそれぞれの楽曲の雰囲気の「差異」である。
私も所詮は素人であるため、音楽に詳しいというわけではない。そのため、上までに述べたジャンル例も正しいものであるかは分からないが、雰囲気の差異を感じていくために、知識を振り絞って近いジャンルを並べた(つもり)。
伝わっていると信じたいが、各々の楽曲に似通った曲調のものは一切存在していない。
このある種ハチャメチャな曲調の違いにこそ今回のアルバムの妙がある。
それぞれはそれぞれの楽曲として独立し、多元的な世界を構成している。初めに述べた通り、楽曲的な意味合いでの繋がりや確かなコンセプトは感じられるものの、歌詞などによって構成されるそれぞれの楽曲が描く世界が一貫して繋がっているわけではない。
それぞれの楽曲の曲調は述べてきた通りに異なるものであるし、詞についても視点や心情が異なっていて、且つどこか「俯瞰的」な印象を持っている。
故に、「多元的」と表現することとした。
ここで思い出していただきたいのは、氏が一つ前にリリースしたアルバム名である。
〔CORE〕。「核」だ。
繰り返しになるが、一見繋がりのない多元的な世界が並立し、構築されるこの「Indigo」。しかしながら、てんでんばらばらに感じさせない理由が〔CORE〕にこそあると思う。
〔CORE〕という形を以て、氏の核は事前に我々リスナーの前に提示された。
不変の、「声優」であり「アーティスト」の駒形友梨の確固たる「核」。
これが今回描かれた多元的なそれぞれの世界を繋ぐ「核」として在るのではないか、そのように思う。
(いや、まあ、先にも述べている通り、それぞれ夏らしさのあるナンバーだし、〔CORE〕を知らなくてもチグハグ感は全く感じないだろう。しかし、〔CORE〕の後にこの「Indigo」をリリースしたことに確かな意味を感じずにはいられないのだ)
だからこそ、まだ〔CORE〕を手に取っていないリスナーに関しては、是非とも〔CORE〕を聴いてから改めてこの「Indigo」を聴いてみて頂きたい。
この作品は、「声優」という枠を外れるレベルでとても完成度の高いものである。
しかし、いずれも氏が「声優」であるからこそ100%を越えて表現できる楽曲ばかりであるとも思う。
氏のキャリアの「今の段階での」完成というものを、〔CORE〕を踏まえてこの作品から感じて頂きたいのだ。
長くなったが最後に、このアルバムの完成に関わった全てのクリエイターと、駒形友梨氏に心からの感謝と敬服を添えて、この怪文書を締めくくろうと思う。